グランド・ブダペスト・ホテル

グランド・ブダペスト・ホテル

The Grand Budapest Hotel

2014·映画·99·8.1

あらすじ

伝説のコンシェルジュ・グスタヴHとロビーボーイのゼロが、女性の遺産相続と殺人事件をめぐる大騒動に巻き込まれる。ヨーロッパの架空国家ズボロフカを舞台に、洗練されたコメディタッチで語られる優雅な冒険譚。

レビュー

グランド・ブダペスト・ホテルはウェス・アンダーソンが2014年に監督した喜劇映画で、両大戦間期のヨーロッパを舞台に伝説のコンシェルジュ・グスタフ・Hと若いベルボーイのゼロが偽造絵画と遺産相続を巡る陰謀に巻き込まれる物語だ。アカデミー賞で美術・衣装・メイク・作曲の4部門を受賞した。この映画はオーストリアの作家シュテファン・ツバイクへの愛情を出発点に持っており、失われた「文明の礼節」への哀悼として機能している。 ウェス・アンダーソンの映像スタイル——対称構図、鮮やかなパステルカラー、人形箱的な建築内部——はこの映画で頂点に達している。グランド・ブダペスト・ホテルのファサードはミニチュアモデルと実写を組み合わせたもので「本物らしくない」のに「その世界のルールでは本物」という独特の質感を持つ。アンダーソンは映像スタイルと物語内容の乖離を意図的に使いコメディの表層の下に戦争・暴力・歴史の喪失を隠す。雪山での追跡場面がサイレント映画を参照したコミカルな撮影で描かれながら、その背後に政治的恐怖と死が潜んでいるという設計が本作の緊張感の源だ。 レイフ・ファインズが演じるグスタフ・Hは礼儀と冒涜を同じ口調で語る人物だ。品位を保ちながら突然汚言を発する彼のキャラクターは「文明の薄い皮の下にある混乱」を体現している。グスタフとゼロの師弟関係はホテルという「文明の小宇宙」が崩壊する過程で試される。二人の関係は人種・階級・時代を超えた純粋な友情として描かれており、「Zeroが唯一の友人だった」というグスタフの台詞はキャラクターの孤独と愛情を同時に示す。 映画が「本物の語りかどうか分からない」という多重の語りの額縁——著者→老年ゼロ→若年ゼロの回想——を持つのは記憶と歴史の「可信性」を問う構造だ。グスタフが象徴する「古いヨーロッパの礼節」はそもそも幻想だったかもしれないが、ゼロはそれを美しいものとして記憶することを選ぶ。記憶の美化という行為が持つ人間的な価値を映画は肯定も否定もせず、ただ「そういうものだ」と静かに観察する。 アドリアン・ブロディが演じるドミトリ(ヴィラン)のキャラクターは「ファシズムの台頭」を貴族の権力欲として個人化する設計であり、歴史の抽象的な恐怖を具体的な人物として見せる。エイドリアン・ブロディ、ウィレム・デフォー、ジェフ・ゴールドブラムといった俳優がそれぞれ最小限の出番で強烈な印象を残す配役のバランスはアンダーソンのキャスティング能力の証明だ。 アレクサンドル・デスプラの音楽は東欧の民族楽器(チンバロム、バラライカ)を中心に時代と地域の混合を体現し、アンダーソンの視覚設計と完璧に同期する。色彩が象徴として機能する——ピンクは「古き良き時代」を示し、第二次大戦期のシーンではパレットが暗く落ち着いたトーンへと移行する——この色彩の叙事詩がアンダーソン映画の最高傑作としてこの作品を位置づける理由だ。 グランド・ブダペスト・ホテルはウェス・アンダーソン映画の中でも最も「物語の入れ子構造」が精緻な作品であり、4つの時代・3つの縦横比・複数の語り手が積み重なる設計は映画文学として唯一の構造を持つ。グスタフ・Hというキャラクターが体現する「礼儀と教養と信義は没落の時代にも価値を持つ」という美学が、これほど悲劇的なユーモアとして機能する映画は他にない。ラルフ・ファインズのキャリア最高の演技として、多くの映画ファンが挙げる作品だ。 ウェス・アンダーソンのシンメトリーと色彩への執着はグランド・ブダペスト・ホテルで最も洗練された形を見せる。「美しく設計された世界が暴力と歴史の前に崩れていく」という構造は、単なる視覚的快楽を超えた悲劇的な意味を持つ。グスタフ・Hが体現する文明の礼儀は彼の死とともに失われ、語り継がれることでのみ存在し続ける——その構造こそが映画のメタファーだ。 この映画が「古きヨーロッパの礼節」を描きながら同時にその消滅を嘆いているという点は、監督ウェス・アンダーソンがシュテファン・ツバイクの自伝的エッセイ「昨日の世界」から受けた影響に直接繋がっている。ツバイクはナチズムの台頭によってウィーンの文化的礼節が破壊されていく様を記録した作家であり、アンダーソンは彼の作品から「失われた世界への哀悼と感謝」というモチーフを受け取った。グスタフ・Hがその礼節の具現化であり、彼の死がその礼節の終焉として機能する。 この映画が喜劇として笑えるのに悲劇として泣けるのは、アンダーソンが「過去のものになった価値観」を愛情を持って描くからだ。グスタフが「現代では通用しない礼節」として機能するのは、彼の品位が笑いの対象でありながら同時に羨望の対象でもあるからだ。失ったものを笑い飛ばしながら惜しむ——この両義的な感情がアンダーソン映画の最も成熟した表現として、グランド・ブダペスト・ホテルを単なるコメディ映画の枠を超えさせている。 【外部評価】IMDb: 8.1/10 | Rotten Tomatoes: 92%

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