ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密

ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密

Knives Out

2019·映画·130·7.9

あらすじ

著名な推理小説家の死の謎を解くため、名探偵ブノワ・ブランが欲深な一族と渡り合う痛快ウーダニット。

レビュー

「ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密」は、過去数十年にわたって衰退していた「フーダニット(犯人探し)」ミステリーというジャンルを見事に復活させた傑作だ。ライアン・ジョンソン監督は古典的なミステリーの文法を熟知した上で、21世紀の観客に向けて全く新しいミステリー体験を設計した。 本作の最も巧みな仕掛けは、通常の「誰が犯人か?」というフーダニットの問いを早々に外してしまう点だ。物語の序盤で観客は「誰が何をしたか」をほぼ知ってしまう。では残りの2時間は何を楽しむのか——それは「この複雑な家族と状況の中で主人公マルタがどう生き残るか」「探偵ブランは何を知っているのか」「本当の真実は何か」というより深い問いへの探求だ。 ダニエル・クレイグのベノワ・ブランは、ジェームズ・ボンドとは全く異なる南部なまりの英語を使う飄々とした名探偵だ。上品だが押し付けがましくない、古典的名探偵の系譜にある存在でありながら、21世紀的な政治意識も持つ。原語版での彼の南部なまりは、このキャラクターの社会的位置づけを繊細に表現しており、字幕版でこそその面白みが伝わる。 アナ・デ・アルマスが演じるマルタというキャラクターの設定は本作の政治的な縦糸だ。嘘をつくと嘔吐するという特異体質を持つ彼女と、自称「移民の味方」でありながら実際には差別的・搾取的な振る舞いをするスランバーン一族との対比は、移民問題・格差・上流階級の偽善というテーマを軽妙なタッチで批評する。「善良さの定義」を巡るこの問いは、エンターテインメントとして消化しながらも深い余韻を残す。 キャスト陣の豪華さも見どころの一つだ。クリス・エヴァンス、クリストファー・プラマー、ジェイミー・リー・カーティス、マイケル・シャノン、ドン・ジョンソン——それぞれが一癖あるキャラクターを演じ、群像劇としての面白さも高い。特にクリス・エヴァンスがキャプテン・アメリカのイメージを逆手に取った憎たらしいキャラクターを演じていることが、作品にひそかな笑いを加えている。 脚本の精緻さも本作の強みだ。見終わった後に「あのシーンはそういう意味だったのか」という発見が続く構造の巧みさと、全ての伏線が回収される満足感は、本格ミステリーの醍醐味だ。 類似作品との比較:「アガサ・クリスティ原作映画」(「オリエント急行殺人事件」など)の精神を継承しながら、現代的な政治意識を加えた後継作として位置づけられる。続編「グラス・オニオン/ナイブズ・アウト」(2022)はより直接的な社会批評として評価が高く、「ナイブズ・アウト3」(制作中)へと続く。 ナイブズ・アウトはアガサ・クリスティ風のフーダニット(誰がやったか)ミステリーの文法を意図的に転覆させた作品だ。「犯人」が明かされるタイミングが通常の殺人ミステリーとは全く異なり、「犯人が誰か」ではなく「なぜそうなったのか」「どう終わるのか」という別種の緊張を前半から後半にかけて持続させる。 アナ・デ・アルマスが演じるマルタは、「嘘をつくと嘔吐してしまう」という体質を持つという設定が、物語全体の論理的な枢軸となっている。この「人間嘘発見器」という設定がもたらす喜劇的な緊張は、ミステリーの文法とコメディの文法が同時に機能する独自の化学反応を生む。 ダニエル・クレイグ、クリス・エヴァンス、クリストファー・プラマーという実力派キャストの競演は、各キャラクターが「完全に腑に落ちる嘘つき」として機能することで物語の信頼性を支えている。ライアン・ジョンソン監督の次作「グラス・オニオン」でも同じ探偵が活躍するため、続けて鑑賞することで本作の満足度がさらに高まる。 【外部評価】IMDb: 7.9/10 | Rotten Tomatoes: 97%

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