ザ・メニュー

ザ・メニュー

The Menu

2022·映画·107·7.2

あらすじ

離島のレストランで著名シェフが特別ディナーを提供するが、招待客が次々と予期せぬ運命を辿る暗黒グルメスリラー。

レビュー

「ザ・メニュー」は、グルメ映画とブラックコメディとスリラーを鮮やかに融合させた、2022年最も独創的な映画の一つだ。マーク・マイロッド監督が描くのは、「美食」という文化に内包された欺瞞、格差、そして芸術家の自壊という重たいテーマだが、全体を貫くブラックユーモアがその重さを絶妙に中和している。 舞台は離島のレストラン「ホーソン」。ユリカモメ島に立ち、料理評論家や富裕層の招待客だけが訪れる超高級レストランで、シェフ・ジュリアン・スロウィック(レイフ・ファインズ)が特別なディナーを提供する。コース料理が進むにつれ、客と料理人の関係は徐々に逆転し始める。 本作の最大の面白さは「誰が生き残るか」という問いに対する答えの構造だ。招待客たちは弁護士、俳優、食通老夫婦、投資家など「上流階級の消費者」として登場するが、唯一異質な存在が、招待客の一人として来た(本来の招待客とは異なる)マーゴット(アニャ・テイラー=ジョイ)だ。彼女がシェフと対峙する終盤のシーンは、「本物の楽しみ」と「見せびらかしのための消費」の違いを、最もシンプルで最も深いレベルで可視化する。あのチーズバーガーのシーンが語る真実は、映画全体の主題を凝縮した宝石のような場面だ。 レイフ・ファインズの演技は本作の核心だ。穏やかで統制のとれた、しかし底知れない深みを持つシェフを演じる彼の存在感は、ハンニバル・レクターの系譜にある「優雅な狂気」を体現している。料理を通じて伝えようとした「何か」が歪んでいく過程の内側にある悲しみと怒りの混ざり合いを、彼は台詞ではなく存在感で表現する。 アニャ・テイラー=ジョイの演技も特筆すべきだ。「クイーンズ・ギャンビット」で世界的に知られた彼女は、本作で一見脆弱そうに見えながらも実は最も現実的な判断力を持つキャラクターを演じ、レイフ・ファインズとの対決シーンに緊張感と温かさを同時に持ち込む。 グルメ界・アート界・富裕層への批評としての読み方も豊かだ。「食べる側」と「作る側」の非対称な関係、消費という行為の暴力性、高級文化の中で「本物の体験」が失われていく現象——これらは美食に限らず、現代の消費文化全体への問いとして響く。 類似作品との比較:「パラサイト 半地下の家族」「ゲット・アウト」などの階級をテーマにした映画と精神的に近い作品。同じ「密室スリラー」の枠では「クルー」「ナイブズ・アウト」と並べて見ると楽しい。 ザ・メニューは「高級料理」というジャンルへの愛情と批判を同時に持つ作品だ。ファインダイニングの儀式——メニューの解説・シェフの登場・料理への拍手——を完璧に再現しながら、その儀式そのものの欺瞞性を暴いていく。 レイフ・ファインズが演じるシェフ・スローヴィクは「熱情が冷静な支配欲に変わった芸術家」の究極形だ。かつて料理への純粋な愛情で動いていた職人が、自分を祀り上げる客の視線によって変質していく過程が物語の核心にある。これは「創造者と観客の関係」についての深い問いかけでもある。 アニア・テイラー=ジョイが演じるマーゴという「招待されていない異物」の存在が、物語に突破口を生む。「本当の意味でその料理を楽しめる者かどうか」という問いへの答えが、クライマックスの解決に直結している。美食と権力と芸術の関係を問うこの映画は、高級料理文化に対する批評的な視線を持ちながら、同時にそれへの深い愛情も隠していない。 「本当に料理を楽しめる者」だけが生き残るというクライマックスの論理は、美食とは何かへの最も辛辣な回答だ。 【外部評価】IMDb: 7.2/10 | Rotten Tomatoes: 88%

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