
レビュー
エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンスはダニエルズ(ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート)が監督した2022年のA24製作映画で、中国系移民の主婦エヴリン・ワンがマルチバースの危機に立ち向かう物語だ。アカデミー賞で作品賞・監督賞・主演女優賞・助演男優賞・助演女優賞・脚本賞・編集賞の7部門を受賞した。
この映画の根幹にある問いは「意味のない世界でどう生きるか」というニヒリズムへの応答だ。娘ジョイ(ステファニー・スー)が体現するヴィランのジョブー・トゥパキはマルチバースの全可能性を同時に認識した結果「どの選択も意味を持たない」という結論に至り全世界を破壊しようとする。この哲学的前提に対して映画が出す答えは「親切であること」という単純さであり、その単純さをナンセンスなコメディと格闘技と移民映画という三つの異なる文脈で試し続ける。
ミシェル・ヨーが演じるエヴリンは才能を潰されてきた移民の中年女性として出発する。「別の次元ではダンサーだった、料理人だった、映画スターだった」という可能性の提示は、移民が新しい国で「成れなかった自分」の重さを生きるという体験のSF的可視化だ。エヴリンが最終的に選ぶのは「コインランドリーを経営する自分のまま娘と和解する」という選択であり英雄的変身ではなく現状の受容として着地する。
イケア袋・ゴーグル・ホットドッグの指という小道具の使い方、格闘技シーンの過剰なコレオグラフィ、字幕テロップの感情的使い方——編集と視覚設計の密度は高く1回の視聴で全要素を把握することが不可能な量の情報が詰め込まれている。この「過密さ」そのものがマルチバースの概念——無限の可能性が同時に存在する——の映像的体現として機能する。
キー・ホイ・クァンが演じるウェイモンドは「やさしさこそが最強の武器」という映画の主題そのものを体現するキャラクターとして、暴力でなく愛情で問題を解決し続ける。クァンの復帰(「グーニーズ」「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」以来数十年ぶりの主要映画出演)がアカデミー賞助演男優賞という形で評価されたことも、映画の感情的な誠実さと一致する形で完結した。「多様性・移民・世代間の傷」という現代の問いを、壮大なスペクタクルと親子の物語の中に完全に溶け込ませた点で、この映画は21世紀のアメリカ映画の代表作の一つとして記録される。
この映画が「マルチバース」という概念を真剣に扱いながらも、最終的に「マルチバースより今いる世界の人間関係の方が重要だ」という答えに到達する点は、SFジャンルの反省的な自己批評として読める。「無限の可能性」を提示しながらも、それが人間を幸福にしないことを示す——これはデジタル時代の「選択肢過多」という問題への映画的な応答だ。ストリーミング、SNS、AI——無限のコンテンツと可能性の中で生きる現代人が「今ここにいる自分」を受け入れることの難しさと価値を、この映画は壮大なスケールで論じている。
エヴリンが最終的に「コインランドリーの中年移民女性としての自分」を受け入れる選択は、「今の自分でいいのか」という問いへの一つの答えだ。「別の可能性の自分」への羨望を超えて、「今ここで選んだ自分の積み重ね」に価値があるという認識は、移民という特定の文脈を超えた普遍的な人間の条件として機能する。A24というインディペンデント映画スタジオが「ニッチな芸術映画」としてではなく「最も多くの人の感情を動かした映画」として評価されたことが、この映画の射程の広さを示している。
【外部評価】IMDb: 7.7/10 | Rotten Tomatoes: 93%
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